徹底解析!! アウフグースチャンピオンシップ個人の部優勝者 五塔熱子「八岐大蛇」

ヨーロッパで開催される、アウフグースの世界大会「Aufguss WM」。
世界のトップアウフギーサーが集結する世界大会に公式参戦するための日本予選が、7月に神奈川県横浜市の「スカイスパYOKOHAMA」で行われた。
Aufguss Championship Japan(ACJ)と称されるこの大会に、個人の部32名、団体の部13チームが出場し、個人の部で鳥取県Nature Sauna所属の五塔熱子氏が優勝した。
まさに日本最高のアウフギーサーとなった五塔熱子。彼女が演じた演目「八岐大蛇」には、どんな想いとこだわりが込められたのか。
本記事では五塔熱子氏に直撃インタビューをし、徹底解析したい。

鳥取県Nature Sauna所属「五塔熱子」とは

本題に入る前に、まずはアウフグースとは、Nature Saunaとは、そして五塔熱子とは、簡単に紹介したい。
アウフグース とは、熱したサウナストーンにアロマ水などをかけ、たちのぼった蒸気をタオルで扇ぐパフォーマンスのことをいう。
美しいタオルさばきでサウナ室の湿度を巧みにコントロールしながら的確に風をお客さんに送るさまざまな技術が評価される。詳しくはこちらの記事をチェック。
https://saunatime.jp/articles/55/

Nature Sauna とは、鳥取県琴浦町の国立公園内にできたフィンランドスタイルのサウナ。
サウナ室はもちろん、大山の伏流水をかけ流した贅沢な水風呂と、雄大な自然の真ん中で味わう外気浴が特徴。県内外から多くのファンが押し寄せる人気施設。サウナタイムが初めてプロデュースさせていただいた施設でもある。
くわしくはこちらの記事をチェック。
https://saunatime.jp/articles/77/

そして、 五塔熱子 は、Nature Saunaに所属しているプロアウフギーサー。全国さまざまな施設に遠征し、アウフグースの普及や指導にも力を入れている。
アウフグースのプロチーム、「 Aufguss Professional Team 」にも所属している。

世界を意識した熱子流戦略

それでは、さっそく熱子氏にインタビューしてみよう

サウナーけた:どうぞよろしくお願いします。
五塔熱子:よろしくお願いします!

まずはAuguss Championship Japan、個人の部優勝、おめでとうございます。

五塔熱子:ありがとうございます。選手として大会に出場しながら、運営もいろいろ携わっていて。本当に大変であっという間の6日間でした。

たしかに……。熱子さん前説やお客さん誘導もしてらっしゃいましたもんね……。本当にお疲れ様でした。
今日はぜひ一緒に熱子さんの演目のVTRを観ながら、こだわりやエピソードなどを伺いたいと思っているのですが、その前に全体的に今回の大会で意識したことなどありますか?

五塔熱子:そうですね……。わたしたちが普段行っているアウフグースと、ヨーロッパのアウフグースは価値観がイコールとは限らないですし、審査員のみなさまも全員海外の方なので、まずはその違いをきちんと認識するところから始めました。

熱子さんは以前、ポーランドでヨーロッパのアウフグースを見てこられたかと思うのですが、世界と日本のアウフグース、主にどういった違いがあると思われますか?

五塔熱子:テクニックが全てではないというところです。厳密にいうと、テクニックが占める割合があまり高くないというところですかね……。これは事前にルーカス(元アウフグース世界大会王者)が講習で日本に来た時も言っていました。

テクニックが全てではない……。たしかに、日本のアウフグースは、華美にタオルを回し、派手に投げてスパッと受け取る、このようなシーンをよく見かけます。

五塔熱子:もちろん技を極めるのも大切ですが、まずは基本的な技のオーダー、パラシュートやヘリコプターがしっかりできていることが大切で、それを踏まえた上でいろんなテクニックをどう組み立てていくのか。まさにその評価基準をしっかり意識したことが、今回の優勝に繋がったのかなと思います。

なるほど……。フィギュアスケートのようにアウフグースは採点競技で、かつ日本での開催は初。そうなると当然その採点基準はしっかりと把握、分析しておかないといけないですね。

五塔熱子:わたしがポーランドで見たアウフグースは、まさにショーなんですよね。15分間のショーでいかに観客を引き込めるか。そのために、演目をつくるときにとにかくわかりやすい「起承転結」を意識しました。

世界を意識してテクニックよりも全体的なショーの要素を強く織り込んだ。おおまかにいうとこれが熱子さんの戦略ですね……。
熱子さんが演じた演目「八岐大蛇」これをわかりやすく表現する起承転結。とても気になります……。

五塔熱子の演目「八岐大蛇」

熱子さんが演じた演目「八岐大蛇」
この演目の構成や起承転結を伺う前に、なぜこの演目にしたのか、ぜひ教えてください。

五塔熱子:山陰の題材にしたい、というのは最初に思ってました。このアウフグースチャンピオンシップジャパンの準備を始めたのが年明けからなんですが、いつもアウフグース受けてくださるお客さんから、「熱子さんにはこの曲が合うと思うから、この曲でアウフグースしてみたら?」って言われて、勧められた曲があったんです。
その曲を聴きながら、どんな演目がいいかな、と思っていた時に、なんか闘う感じのものがいいなと思ったんです。普段の自分の演目とは180℃違う感じですけど。

たしかに。熱子さんの演目って、癒しとか穏やかなものが多い印象があるんですが、八岐大蛇はすごく猛々しい感じでしたもんね……。

五塔熱子:そうなんです。全体的に盛り上がる感じの演目を考えました。八岐大蛇は、非常に動きの多い演目ですが、わたしは言葉を喋りながらなにかをするのがすごく苦手で、言葉を発さず、表情や動きだけで、八岐大蛇を倒しにいくストーリーを演じるのがすごく大変で……。終わった後とか、体力と精神力をどっと持ってかれるんですよね。

八岐大蛇のストーリー構成をぜひ教えていただいていいですか?

五塔熱子:八岐大蛇は、オープニングのあと、1セット目、2セット目、3セット目、エピローグ、と計4セットで構成されています。
1セット目は、スサノオノミコトが登場し、八岐大蛇の出る村に行き、お酒をつくるところまで。
2セット目で八岐大蛇が登場します。八岐大蛇がスサノオが作ったお酒を飲んで酔っ払うところまでです。
3セット目に再度スサノオが登場し、剣舞で八岐大蛇を倒すという構成です。
そして最後がタオルに感謝をするエピローグです。

なるほど……。熱子さんが「スサノオ→八岐大蛇→スサノオ」と、演じる対象をセットで変えているんですね。
これ、いま構成を聞くと、すごい面白いですね。

五塔熱子:そうなんですよ。最初、演目する前に解説を入れようかな、と思ったんですが、演目見た人がどのような感想になるのかとても興味深くて……。解説などいれずにそのままやりました。

あの八岐大蛇が出てくるシーン、あれは圧巻でしたね。

五塔熱子:ありがとうございます。そこはものすごくこだわったところで、 多根神楽団 の方々に、演目の相談をし、八岐大蛇の蛇頭(じゃがしら)をお借りしました。

あの蛇頭、熱子さんの舞。あの2セット目がまさに演目の大きなみどころでしたね。
アウフグースの域を飛び越え、多根神楽団の方の協力が、一気に演目に深みを与えたのかもしれませんね……。

五塔熱子:はい。多根神楽団の方達には本当に感謝しています。
それから、アロマの香りにもこだわりました。

アロマは採点でも高いシェアをもってますからね……。
たしかミントとレモン。月下香と紫檀(したん)、そして白檀(びゃくだん)とユーカリですっけ?

五塔熱子:はい。各々ブレンドしていて、各セットでアロマを変えています。

これはなにかメッセージなどあるのでしょうか。

五塔熱子:1セット目のミントとレモンで、まずは爽やかな雰囲気にしたかったんです。
その後2セット目は、八岐大蛇がお酒を飲むシーンがあるので、お酒の匂いを演出したかったんですよね。それで、月下香に紫檀をブレンドしてお酒の香りを出してみました。
最後の3セット目は、スサノオと八岐大蛇の闘いなので、重々しい感じにしたかったんです。なので、白檀をメインに、でも重々ししすぎないようにユーカリで少し中和しました。

まさに今回の演目のストーリーとリンクした香りですね。

動画で振り返る、1セット目〜2セット目

ここからはぜひ、一緒に決勝の動画を観ながら、各シーンのこだわりなどを伺えればと思います。

五塔熱子:はい。よろしくお願いします!

まずはオープニング。非常に厳かな雰囲気のなか熱子さんが登場しますね……。
最初のロウリュ、そしてそこからのヘリコプター。
綺麗なヘリコプターですね……。

五塔熱子:基本的な技をきちんとやる。これはすごく大切なんです。とくにヘリコプターは攪拌でしか使えない技なので、1セット目、最初のロウリュ、最初の攪拌でしっかり行いました。

ヘリコプターからのパラシュートもすごく綺麗ですね。

五塔熱子:パラシュートのときはお客さんの表情をみてるとなんだか自分もとてもリラックスして楽しんでやろうと思えました。

そして、1セット目のクライマックス、お酒をつくるシーンですね。

五塔熱子:お酒の入れ物も、日本っぽい入れ物だと海外の方に伝わりにくいなと思って、それで聖杯のような入れものにしました。
実際はホームセンターの植木鉢ですがw

アイテムもこだわってますね……。

お酒ができるとここから2セット目ですね。

五塔熱子:はい。いったん私が会場から出て、裏ですぐに八岐大蛇の衣装に着替えました。

すごい早技ですね……。

五塔熱子:裏ですごく息切れしてましたよ。審査員の方に、「体力が無さすぎる。海外のアウフギーサーは日本人よりもっと体力あるよ」と言われました。

フィジカルを作るのも重要ですね……。
ここから八岐大蛇登場ですね。

五塔熱子:はい。多根神楽団から借りた蛇頭が出てきます。

これにはなんだか度肝を抜かれました。。。 圧巻というか、魅入られました。

五塔熱子:ありがとうございます。とても重要なシーンなんですが、会場に入ると「五塔熱子」と書かれたタオルをもっているお客さんが何人かいて……。

あ、いらっしゃいますね。五塔熱子ファングッズのタオル持ってる方達。

五塔熱子:本当に嬉しかったです。わたしが来るたびにそのタオルを広げて見せてくださって……。

五塔熱子:ここからちょっとこだわった振りをするのですが、オープンタオルを縦に折って細長くしたんです。これで八岐大蛇の蛇の部分を表現しました。

オープンタオルを縦!これは難しい技術ですね……。でもたしかに、タオルのしなやかな動きが大蛇に見えます。

五塔熱子:2セット目、大蛇の舞をまずは美しく表現しました。
そしてここで、大蛇がお酒を飲みます。

五塔熱子:すると今度は、大蛇の動きがさっきと比べてちょっと酔っ払った感じになると思います。

おお!すごい!たしかに!いや、動きは綺麗なんですよ。でもなんかさっきより少し荒々しい感じに見えます。

五塔熱子:大蛇がお酒を飲む前と後で、動きを変えてみました。
これだけ大きく動いているので、ストーブ脇に置いてある蛇頭に当たらないか、ずっと気をつけてましたよ。

たしかに、当たっちゃうと大変ですもんね……。
そしてここから、大きいタオルをオープンで振って……、すっとクローズにする。そしてスーパーエイト。
すごいですね。オープン→クローズ→スーパーエイトがとてもスムーズですね。

五塔熱子:タオルはオープンにしてからクローズまで戻さないと、オープンを評価されないんですよ。なのでどのように技を繋ぐか、綺麗に見せられるか、というのはとても考えました。

動画で振り返る。3セット目。

そしてここから3セット目。スサノオと八岐大蛇の決戦のシーンですね。

五塔熱子:はい。最初は剣舞からスタートします。

八岐大蛇との熾烈な闘いが伝わってきますね……。

五塔熱子:ありがとうございます。取り回しなどはいろんな動画を観て勉強しました。

おお……。まさにそういうところが、「ショー」として奥深くさせたポイントなのかもですね……。

五塔熱子:あと、適宜サッとストーブをタオルで扇いだりしています。少し熱さが足りない感じがしたので、ストーブを扇いで体感温度を上げています。

あ、たしかに。時折サッと扇いでいますね。

五塔熱子:国によって好みの体感温度が多少違うようで……。今回、熱さをきちんと保てた人の方が、ポイントが高くついている感じがしますね。

事前に公表した評価ポイントに、「温度の上昇と管理、分配」というのがありますもんね……。
そしてここで……、タオルの2枚持ちですね。

五塔熱子:タオルを2枚使うときは、取り回しやすさから「風鈴タオル」を使いました。要所に合わせてさまざまなブランドのタオルを使ってますが、全て重さが違うので大変でした。

タオルは数グラム重さが変わるだけで、振った感が大きく変わりますもんね……。
そしてここからスサノオVS八岐大蛇の最終局面。

五塔熱子:はい。もうオラオラでタオル振ってます。

会場のボルテージはMAXでしたね。
そして、八岐大蛇との闘いが終わり、最後はタオルを刀に見立てて、

圧巻のラストでしたね…。
非常に見応えのある演目「八岐大蛇」ですが、熱子さんの、ストーリー構成からアロマ、技術、細部のクリエイティブまで、多くのこだわりを伺うことができました。
改めて、このインタビューをみてから動画を見ると、すごく見応えがあるかと思います。

最後に、ぜひアウフギーサーの方達へのメッセージなどあれば、お願いできますでしょうか?

五塔熱子:ありがとうございます。そうですね……、今回、このような大会が初めて行われて、もちろん競技者として評価されたりすることも大事なんですが、技術を磨くことと同じくらい、知識をきちんと得ることも大切なんですよね。
アウフグースをするときのサウナ室の安全管理。
アロマに関するハーバルの知識。
お客様にどのような癒しを提供するべきか、ということをしっかりと知識を得て、考える必要があるかと思います。

アウフグースという言葉がまだ普及してない時から、ずっとタオルを振り続けてきた五塔熱子氏。そんな彼女がこの大会でこだわったのは、まさに最後の言葉の通り、癒しを提供すること。
テクニックやパフォーマンスではなく、ショーとしてお客さんに楽しんでもらい、心地よい風と温度と香りを届ける。その真摯な姿勢が、日本一の座を得た大きな要因ではないだろうか。
9月からアウフグース世界大会がオランダで行われる。日の丸を背負った五塔熱子氏を、これからも応援していきたい。
「八岐大蛇」動画は こちら から!

サウナのサブスクリプションサイト「サウナタイムパス」