トップサウナーインタビュー4 苦難を乗り越え、自分を取り戻し、夢に向かって邁進する 塩谷歩波さん

「銭湯図解」というイラストが注目を浴びている。銭湯を縮尺や構造など正確に図解したイラストなのだが、設計図ともイラストとも言えない、不思議な温かみと魅力がある。この「銭湯図解」を描いているのは、高円寺小杉湯の番頭兼イラストレーターである塩谷歩波さん。なぜ、こんな温かみのあるイラストが描けるのか。そこには、苦難を乗り越え夢に向かって邁進する、強い意志があった。

注意書きはイラストで書くとやわらかくなるんです。注意書きというのは、銭湯とお客さんとのコミュニケーションですから。

今日はどうぞよろしくお願いします。(サウナーけた)
よろしくお願いします。(塩谷歩波さん)

塩谷さんが高円寺小杉湯で普段どのような仕事をしているのか、教えていただけますか?

小杉湯では、番頭の仕事と、イラストの仕事をしています。 番頭というのは、お風呂の準備をする人です。ドリンクを用意したり、タオルたたんだり、シャンプー準備、お湯をためるなど、毎日のお風呂を管理し、開店準備をすることです。 受付に座り、料金をいただいたりする仕事は番台ですね。番台は週二日です。 イラストの仕事は、POPを描いたり、新しい企画をやるときのポスターを描いたりする仕事で、番台の仕事をしながら描いています。

- 小杉湯にきたとき、更衣室などのイラストを見て、なんだかすごくホッとしました。よくある文字だけの注意書きがたくさん書いてある施設って、なんかちょっとピリってしちゃうんですよね。

わかります(笑) サウナや銭湯好きだからこそ、そこはすごく考えちゃうんです。文字だけで注意書きを書いてしまうと、威圧感でしかならないんですよね。なんとなく命令口調になっちゃうというか。 銭湯である以上、注意書きは必要なんですが、なるべく気持ちよく使ってもらう。だからこそ注意書きをイラストで書くとやわらかく伝わるんですよね。注意書きというのは、銭湯とお客さんとのコミュニケーションですから。

最初に取り組んだのは交互浴だったんですよ。交互浴を繰り返していると、ものすごく身体が軽くなり、気持ちも前向きになったんです。

- 「銭湯図解」を描こうと思ったきっかけはなんだったんでしょうか。

それはですね。まず、前職を休職したというくだりから話しますね。私は大学卒業後、設計事務所で働いていたんですが、建築学科にいた時に、周りの同期の方が優秀だったんですよ。そのコンプレックスから、設計事務所に入った時に、身を粉にして誰よりも働くんだ、という気持ちでいたんです。スポ根漫画のように、努力すれば必ず報われる、身を粉にして働けば働くほど結果はついてくる、そう思って必死に働いていたら、身体を壊して休職してしまったんです。そして休職しているときに、銭湯にたまたま出会ったんです。周りが頑張っているときに、自分は休んでいる、そういう罪悪感のようなものがものすごくあったんですが、銭湯はワンコインで行くことができるし、近所にもあるし、罪悪感なく行くことが出来たんです。それで、銭湯によく行くようになったんです。 その時に、同じように休職している友人がいたのですが、twitterで交換日記をやっていたんですね。そこで日々あったことを話しているうちに、銭湯を勧めたいと思って、銭湯の画を送ってあげたんです。すると、その友人が喜んでくれて。「これ、銭湯を図解している画じゃん」って。そこから銭湯図解が始まりました。

- 友達を元気づけるところから銭湯図解は始まったんですね…。

そうなんです。その後、その銭湯図解をSNSなどにアップしていたら、「東京銭湯」という銭湯の情報サイトが私を取り上げてくれて。そしてそれを見つけて声をかけてくれたのが今の小杉湯のオーナーです。

- 素敵な縁ですね。銭湯図解にそんな温かいいきさつがあったとは…。そして、銭湯に出会い、徐々に体調を取り戻していったんですね。

はい。最初に取り組んだのは交互浴だったんですよ。交互浴を繰り返していると、ものすごく身体が軽くなり、気持ちも前向きになったんです。そこでサウナに行くようにもなりましたね。このようなととのい体験が自分を救ってくれたんだと思います。

- 今世の中は猛烈なストレス社会ですからね…。やはり、ストレスと向き合うには一番おすすめなのは銭湯ですか?

そうですね。おすすめは銭湯です。スーパー銭湯などもいいんですが、休職中の数千円は毎日通うにはちょっと大変なんですね。それに対して銭湯はワンコイン。それに、休職中って娯楽にお金を使うことにものすごい罪悪感があるんですよ。例えば美術館とかカフェとか平日に行くと、人が少ないんですよね。そんな中お酒飲んだりゆっくりしたりしていると、人様が働いているときに自分は何しているんだろうって思ってしまうときがあるんです。ただ、平日の銭湯って普通に人がたくさんいるんですよ。おばちゃんが本当たくさんいて。そこに自分も入ってしまうと、罪悪感とかそういったものを感じないんです。銭湯って生活に溶け込んでいますし。お金もかからないし、罪悪感もないし。なので銭湯は本当におすすめなんです。

本当に働きにくい現代だからこそ、自分の「好き」に気づいて欲しい。そのためにも、まずは銭湯に来て、頭を真っ白にして考えてみる

- 働く上での困難を、塩谷さんは銭湯との出会いによって乗り越えたんですね。同じ境遇で苦しんいる方達に、何か伝えたいことなどありますでしょうか。

ぜひ銭湯に来てください。きっと力が抜けて前向きになれます。最近休職期間を振り返って思うのは、努力すれば報われる、というのが違ったんだな、と思うようになりました。というのは設計事務所にいるとき、建築自体好きだったんですが、建築家になるために、多少辛くても我慢することが努力だと思っていたんです。でも、そんなことしたって身体を壊してしまっては意味がない。我慢することが努力ではない。それよりも好きなことで努力することが努力。その好きなことに気づくことが大事なんだって思うんです。自分が銭湯に行っているとき、なんだか銭湯が自分を許してくれているような気がしたんですよね。それで、自分は銭湯が好きだ!って思えたんです。そしてその好きに向かって今努力できているから前向きになれているんです。 本当に働きにくい現代だからこそ、自分の「好き」に気づいて欲しい。そのためにも、まずは銭湯に来て、頭を真っ白にして考えてみる、というのもいいんじゃないでしょうか。

- 確かに…。一昔前のスポ根じゃないですけど、我慢して我慢して努力して自分を追い込んで、で自分を傷つけてしまっては意味がないですね。

あれはやっちゃいけないですよ。もっと自分の好きなものを考えてほしい。銭湯行った後のなんだかふんわりした気分で心が前向きになって、「あぁ、このあと何かしたいなぁ」て、そういう気持ちになることが大切だと思うんですよね。

建築、銭湯、イラスト。自分の特技を合わせると、「リアリティを追求した銭湯のイラスト」ってなるんですね

- 銭湯図解の画を描く上で、こだわっていることなどありますか?

実際のサイズをそのまま出す、ということを気をつけていますね。毎回、銭湯図解を描くときは、実際に銭湯を取材するんですが、そのとききっちり大きさなど測っています。浴槽の高さ430mmとか、全てミリ単位で測っているんですよ。リアリティとかスケール感をきちんと伝えることに注力しています。あと、最近は光の表現をちゃんとやりたいというこだわりがあります。今年中に煙の表現までしっかり出せるようにしていきたいって思っています。

- それはすごいですね…。確かに、さっき見せてもらった銭湯図解の画を見たとき、この画から匂いがしたんですよ…。紙から薪の匂いがしました。

ありがとうございます(笑) リアリティを追求した結果ですね。建築、銭湯、イラスト。自分の特技を合わせると、「リアリティを追求した銭湯のイラスト」ってなるんですよね。

- とても素敵な銭湯図解、たくさん見せていただきましたが、このイラストの仕事はどんな時にやりがいを感じますか?

このイラストを描いているときって、仕事だからやらなくちゃ、という認識が全くないんです。もう毎日描いているんですよね。朝起きたらすぐ描きたくなる。描いていることがずっと楽しいんですよ。なので、描いている時点ですでにやりがいを感じ、そこですでにモチベーションが上がっています。

いつか、世界の銭湯図解を出したい、と思っています。

- ぜひこれからの塩谷さんの展望、やりたいことなど教えていただけますか?

それはですねぇ…。今10年後についてすごく考えてるんですけど、二つありまして。 「銭湯をイケてるカルチャーにすること」と「世界の公衆浴場について調べる」 という思いがあります。 「銭湯をイケてるカルチャーにすること」ですけど、銭湯って今めちゃくちゃメデイアから斜陽産業って言われているんですよ。潰れそうとか、衰退しているとか。それを見るたびに、「違くない?」って思うんです。わたしは銭湯に来るたびに、とてもイケてるところだと思っているし、銭湯ってすごくいい素材だと思っているんですよね。いろんな魅力があってすごくいいけど、まだ活かしきれてない。それを斜陽産業っていうにはかなり勿体無いんですね。だから、今後10年くらいかけて、銭湯図解を使ってもっと銭湯を見える化、可視化する。そして自分の母校の早稲田で講義などしたいと思っています。そうして 銭湯の価値を再定義して、「銭湯に行くことってめっちゃかっこいいじゃん」って思ってもらえる文化を作りたい と思っています。 「世界の公衆浴場について調べる」は、最近フィンランドに行ったんですけど、現地の方が、「サウナはフィンランドの文化だ」って言ったんですよ。それが結構多くの人が言っていてとても感動したんです。銭湯って日本ではいまだインフラのような認識が強いんですが、フィンランドでは文化になっているんですね。それがとてもいいなって思いました。それをみて、日本の銭湯って変わるべきと感じたんです。それは、世界の公衆浴場を知ったからこそわかったこと。それをもっと調べてみたいと思ったんです。公衆浴場って、人々にとってどういうものなのか、最近すごく気になっていて、きっといろんな意味合いがあると思うんです。それをもっと知りたいと思っていますし、そこからいつか、 世界の銭湯図解を出したい 、と思っています。

- すごい…。スケールが本当に大きいですね。未来の展望に向かって、強い意志と明確な道筋がある。本当に10年後が楽しみです。

ありがとうございます。そして今、その実現の為に、ものすごく面白いことをやろうとしているんですよ。

- え!何ですか!?

なんとですね…。今年の6月くらいにですね…。小杉湯でフィンランドの文化と日本の銭湯がコラボする企画を考えているんです。その計画図がこれなんですが………

- ……これは…、ものすごい計画図だぞ!まさにフィンランドと日本の文化のコラボ。絶対に参加したいです!本当に楽しいイベントになりそう……。

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